手形割引とは
手形割引は、企業間の決済で使用される手形を利用して資金を調達する方法です。しかし、支払期日が決まっているのに、どうやってお金に換えられるのでしょうか?
手形割引は、手形に書かれている期日よりも前に手形を現金化する方法です。手形は通常、その期日に現金化しますが、その期日までの金利を負担することで、その日よりも前に現金化できます。待てば額面どおりのお金を受け取れるのですが、資金繰りのため、どうしても現金が必要…こんなケースで手形割引が役立ちます。
手形割引は、手形の売買に当たります。しかし、銀行や業者に割引を依頼しても、必ず換金できるわけではありません。やはりそこには通常のビジネス同様、信用が必要です。金融機関側は、手形割引の依頼人と手形振出人の信用、両方しっかり調査してから手形を買い取ります。
手形割引のシステム
手形割引は、まず、商品やサービスを提供し、手形で支払いを受けた企業が手形割引を使うか決めることから始まります。手形割引を利用することになったら、企業は取引銀行か手形割引業者に対し、手形割引の依頼を行います。取引銀行、もしくは手形割引業者は、それを受け、受取人や手形を振り出した業者について審査を行い、問題がなければ利息などを引いたうえで依頼人に現金を支払います。
- 商品やサービスが提供される
- 商品やサービスを提供された業者が手形にて支払い
- 手形の受取人が銀行や手形割引業者に手形割引を依頼
- 審査
- 審査にとおった場合、手数料、利息を差し引き、手形割引の依頼人に支払い
手形割引の審査について
ご紹介したように、手形割引を依頼すると、手形割引業者や銀行は、手形の振出人などの信用力について審査を行います。それぞれの審査について、少し細かくチェックしていきましょう。
振出人についての審査
振出人についての審査は、手形割引の審査の中でももっとも大切なものです。お金を最後に支払うのは振出人ですから、なんの審査もせずに手形を受け入れてしまっては、金融機関も貸金業者も損をしてしまいます。ここでチェックされるポイントは、振出人の経営状況、これまでの手形取引実績、支払状況などです。
割引依頼人についての審査
手形割引を依頼する割引依頼人についての審査も行われます。割引依頼人には手形の償還義務があり、もしも割引後に振出人が支払いを行わなかった場合、割引依頼人は手形を買い戻す責任があるのです。そのため、割引依頼人に手形を買い戻すための支払能力があるかどうかの審査が行われます。
裏書人についての審査
手形を譲渡する際は、裏書きを行わなければなりません。裏書きは、文字どおり、手形の裏側に、手形の金額を譲渡相手に支払うことを指示する文言とともに譲渡相手の名前を記入することです。裏書きにより手形を譲渡することが可能なのですが、裏書きされた人物は、割引依頼人同様、償還義務があるため、もしも振出人がその金額を支払えなくなった場合に、手形を買い戻さなければならない可能性があります。そのため、手形に裏書きされた人物の信用力についても審査が行われます。裏書人は、言ってみれば融資の際の保証人です。
銀行や手形割引業者は、これらの信用力調査を行ってから、手形割引の可否を判断します。
手形の償還義務について
手形の振出人は、手形の受取人への支払義務があります。しかし、振出人の会社が何らかの理由により支払いができなくなってしまうと、手形の裏に書かれた裏書人は、手形を買い取らなければなりません。裏書人は、自身が手形を所有する前の裏書人に対し、同様の請求を行うことが可能です。これは再遡求と呼ばれるもので、償還されたお金を受け取るのは、一番最後の償還義務者です。
たとえば、手形振出人の会社が倒産してしまった場合、手形の金額を支払えなくなってしまう可能性がありますが、そのような際に、受取人や裏書人には償還義務があります。手形の額面はとても高くなる場合もありますが、大げさに言うと、裏に文字を書き込むだけでかんたんに譲渡することができます。そして同様に、大金を払って手形を償還しなければならない責任を負うことになるのです。
手形割引手数料とは
手形割引手数料(手形割引料)は、手形に記載された期日よりも早く現金化する手形割引を行う際に、手形割引業者や銀行に支払う必要のあるお金のことです。手形割引料は、それぞれの業者や銀行により違いがありますが、基本的な傾向からいうと、手形割引料が安い場合は審査が厳しく、高い場合は審査が緩めです。
一般的に手形割引料が安いのは銀行で、都市銀行の場合は1.5~3.0%程度、普通銀行では2.0~3.5%程度です。次いで信用金庫が2.5~4.5%程度、信用組合が3.5~5.5%程度となっています。手形割引料が高めなのは手形割引業者です。ただ、その幅は広く2.5~15.0%ほどとなっています。
手形割引料を計算する際は、以下の計算式を用います。
・手形の額面金額×手形割引率×満期までの日数/365=割引料
・手形割引料+取立料=手形割引手数料
手形割引率は通常、年率で表記されます。満期までの日数は、手形の支払期日までの残り日数です。
手形割引のメリット
1.早い段階での現金化
手形割引のもっとも大きなメリットは、早い段階での資金化が可能なことです。手形の場合は、30、60、90、120日といった感じの支払スパンとなるのが一般的ですが、さらに長いスパンで決済される手形も存在しており、こんな手形で支払われると、資金として使えるまでに長い時間がかかってしまいます。
手形での支払いを行う企業の多くが大企業です。いつも困るのは下請けという図式ができあがっているわけですが、それでは下請け企業は資金繰りに苦しむばかりになってしまいます。しかし、手形割引を活用すれば、期日前に資金として利用できるので、割引料や手数料がかかるとはいっても、下請け企業としては大きな助けになるでしょう。
2.審査の難易度がやや低い
手形割引を依頼する際、もっとも信用力を厳しく調査されるのは振出人です。受取人の審査も行われますが、重要度はそれほど高くはありません。それと比較すると、銀行における融資を依頼する場合、申込者の信用力は厳しくチェックされることになります。審査の難易度なら、あきらかに手形割引のほうが低いといえるでしょう。
3.お得な割引料
手形割引料の上限は、利息制限法により100万円以上の場合で15.0%と定められています。一般的な銀行、信用金庫や信用組合における手形割引料は、高くても5.5%程度です。
売掛債権を譲渡するファクタリングの場合は、利息制限法の制約を受けないため、20%を超えるような手数料をとられることもありますが、手形割引の場合は、最高でも15.0%、ほとんどの場合、5~10%程度なので、手数料はかなりお得だといえるでしょう。
4.業者の信頼度が高い
手形割引は、銀行法や貸金業法で制限されている業者にしか扱えないため、必然的に怪しい業者がこれを扱える可能性は限りなく低くなります。先ほどご紹介したファクタリングはこの限りではないので、怪しい業者に出会う可能性があります。その点、手形割引の場合は、業者の信頼度が高いため、安心して利用できるでしょう。
手形割引のデメリット
1.買い戻し義務
ご紹介したとおり、手形割引には買い戻し義務があります。受取人と裏書人には、振出人が万が一額面どおりのお金を払えなくなった場合に、それを買い戻さなければならない義務があるのです。可能性としては低いものの、これは大きなデメリットだといえるでしょう。
2.割り引かれる
支払期日の前に資金化する手形割引では、手形割引料が差し引かれるため、額面どおりの金額を受け取ることは不可能です。割引料はお得だとはいえ、やはり満額を受け取れないことはデメリットだといえます。
3.手形がなければ使えない
手形割引は元々、手形で支払いを受けた場合にしか使えない資金調達方法です。
手形割引事業者について
手形割引を依頼する際は、ご紹介したように、手数料が安いほど審査が厳しくなる傾向があります。振出人や受取人の業績などに問題があり、審査にとおらなかった場合でも、ほかの金融機関や手形割引業者なら審査にとおるかもしれません。ただ、怪しい業者が入り込む余地は少ないとはいえ、大金がかかっているわけですから慎重に業者を選ぶ必要があります。
業者の見極め方
手形割引を依頼する業者を選ぶ際は、まず、手形割引料を公開しているかどうかチェックしましょう。大手企業や上場企業の振り出す手形は、高くても10%ほどの割引料が適用されます。しかし、そのほかの企業となると、それ以上になることもあるので、割引料については事前に確認しておきましょう。
インターネットで業者の評判をチェックすることも重要です。悪い口コミが多いようなら警戒すべきでしょう。担当スタッフの対応も、その業者を判断する材料のひとつです。
手形割引を依頼する際に用意するもの
手形割引をご依頼いただく際、三及では、以下の書類等をご用意をお願いしております。
- 手形
- 社判(ゴム印)・会社印(認め印可)
- 代表者様および来店者様の本人確認書類(運転免許証など)
*手形の成因(手形の原因となった取引の内容)が分かる書面を用意していただく場合があります。
*社判(ゴム印)はお持ちでなくても署名でも構いません。
*本人確認書類は初回お取引時のみ必要です。
手形割引で注意すべき点
手形に問題があると、手形を資金化することができません。手形のチェックポイントとして、以下が挙げられます。
1.約束手形
「約束手形」とプリントされているか確かめてください。
2.金額の表記
金額が正しいかどうかを確認するとともに、表記を確認します。手書きの場合は「金」と「円」で金額が挟まれているかどうか、チェックライターの場合は、アラビア数字の金額が「¥」と「※」で挟まれているかどうかを確認してください。
3.支払期日
現実に存在する日付かどうか確認するとともに、振出日よりもあとの日付になっているかどうかも確認してください。
4.手形の受取人名
受取人の名前が間違っていないかどうかチェックします。
5.銀行名
支払いが行われる銀行名が正しく書かれているか確認してください。その銀行が現存するかどうかのチェックも怠れません。
6.振出人名
自署やゴム印があるかどうかチェックしてください。
7.振出人住所
営業所などが、その住所に現存するかどうかチェックする必要があります。
8.支払約束
金額の下に支払いを約束する文言が記載されているか確認してください。
困ったときの資金調達方法に「手形割引」
下請け企業にとって、資金調達は生命線です。手形で支払われた場合でも、手形割引を利用すれば、期日前に手形を資金化することができます。振出人が上場企業や大手企業で信用力を備えていれば、割引料もそれほど多くはかかりません。困ったときの資金調達方法として、手形割引の存在もぜひ、覚えておいてください。